猫のお尻を気にする・お尻歩きの原因【獣医師監修】
猫が頻繁にお尻を舐めたり、床にお尻をこすりつけて歩いたり(スクーティング)する行動を見かけると、飼い主としては驚くとともに心配になります。犬のお尻歩きは比較的よく知られていますが、猫にも同じ行動が見られることがあります。
猫のお尻を気にする行動は、肛門嚢(肛門腺)のトラブルや寄生虫感染、皮膚炎などさまざまな原因で起こります。放置すると悪化するケースも多いため、原因を正しく理解し、適切なタイミングで動物病院を受診することが大切です。
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この記事のポイント
- 猫のお尻歩き(スクーティング)は肛門周囲の不快感を示すサイン
- 最も多い原因は肛門嚢の貯留・炎症・感染
- 寄生虫(条虫)は肛門周囲に白い粒状の節片が見られることがある
- 下痢の後にお尻を気にする場合は皮膚のかぶれが原因のことも
- 肛門嚢の破裂は強い痛みを伴い、早急な治療が必要
- 自宅での肛門腺絞りは猫のストレスが大きいため獣医師に任せるのが望ましい
猫の肛門嚢(肛門腺)の基礎知識
猫のお尻のトラブルを理解するには、まず肛門嚢について知っておく必要があります。
肛門嚢とは
肛門嚢は肛門の両脇(時計で言うと4時と8時の位置)にある小さな袋状の器官です。内部には分泌腺があり、強いにおいのする液体を産生しています。この液体は排便時に便とともに少量ずつ排出され、マーキングやコミュニケーションの役割を果たしています。
猫と犬の違い
犬に比べて猫は肛門嚢のトラブルが少ないとされていますが、決してゼロではありません。特に以下に該当する猫はリスクが高まります。
- 肥満の猫(肛門嚢の自然排出が困難になる)
- 慢性的に軟便・下痢の猫
- 高齢の猫
- 運動量が少ない室内飼いの猫
お尻を気にする行動の原因
原因1:肛門嚢の貯留・炎症
肛門嚢の分泌液が正常に排出されず、袋の中に溜まった状態が「肛門嚢の貯留」です。貯留が進むと内容物が濃縮されてドロドロになり、排出がさらに困難になります。細菌感染を起こすと「肛門嚢炎」となり、痛み・腫れ・膿が見られます。
| 段階 | 症状 | 緊急度 |
|---|---|---|
| 貯留(軽度) | お尻を気にする、舐める、スクーティング | 早めに受診 |
| 炎症(中等度) | 肛門周囲の腫れ、赤み、排便時の痛み | 当日受診 |
| 膿瘍(重度) | 肛門横の腫れが大きく硬い、発熱、元気消失 | 至急受診 |
| 破裂 | 肛門横の皮膚に穴が開き膿や血が出る | 至急受診 |
原因2:寄生虫
特に条虫(瓜実条虫)は猫のお尻を気にする行動の原因になります。
条虫の特徴:
- ノミを媒介して感染する
- 肛門周囲や便の表面に白い米粒状の片節(体の一部)が付着する
- 肛門周囲にかゆみや違和感を引き起こす
- 完全室内飼いでもノミの侵入があれば感染する可能性がある
回虫・鉤虫など他の寄生虫:
- 大量寄生の場合に肛門周囲の不快感を引き起こすことがある
- 下痢を伴うことが多い
原因3:下痢・軟便による肛門周囲の皮膚炎
慢性的な下痢や軟便が続くと、肛門周囲の皮膚が便で汚れ、かぶれや皮膚炎を起こします。特に長毛種は毛に便が付着しやすく、皮膚のトラブルにつながりやすいです。
原因4:食物アレルギー
食物アレルギーは皮膚症状として現れることが多く、肛門周囲のかゆみや赤みの原因になることがあります。食物アレルギーが疑われる場合は、除去食試験を行って原因となるタンパク質を特定します。
原因5:肛門周囲の腫瘍
高齢猫では肛門周囲に腫瘍(肛門嚢アポクリン腺癌、肥満細胞腫など)ができることがあります。しこりや潰瘍が見られる場合は早期の検査が必要です。
原因6:直腸脱・会陰ヘルニア
排便時のいきみや慢性的な下痢・便秘が原因で、直腸の粘膜が肛門から飛び出す「直腸脱」や、骨盤底の筋肉が弱って直腸や膀胱が偏位する「会陰ヘルニア」が起こることがあります。これらは外科的な治療が必要です。
お尻を気にする行動の観察ポイント
猫がお尻を気にしている場合、以下のポイントを観察し、受診時に獣医師に伝えてください。
| 観察項目 | 確認すること |
|---|---|
| 頻度 | 1日に何回くらいお尻を気にするか |
| 行動の内容 | 舐める、こする、噛む、スクーティング |
| 肛門周囲の外見 | 腫れ、赤み、膿、出血、しこり |
| 便の状態 | 硬さ、色、血液の有無、寄生虫の有無 |
| 便の表面・肛門周囲 | 白い粒状のもの(条虫の片節)の有無 |
| 全身の状態 | 元気、食欲、体重の変化 |
| 排便時の様子 | いきむ、鳴く、排便後にダッシュする |
自宅での対処法
肛門周囲の清潔保持
- ぬるま湯で湿らせたガーゼで肛門周囲をやさしく拭き取る
- 長毛種は肛門周囲の毛を短くカットする(サニタリーカット)
- 便が付着したまま放置しない
やってはいけないこと
- 自宅で肛門腺を絞ろうとする(猫は犬以上に敏感で、誤った方法は肛門嚢を傷つけるリスクがある)
- 人間用のウェットシートで拭く(アルコールや香料が刺激になる)
- 肛門周囲の腫れを潰そうとする
- 市販の駆虫薬を自己判断で使用する(寄生虫の種類によって薬が異なる)
動物病院での検査と治療
主な検査
| 検査項目 | 目的 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 視診・触診 | 肛門嚢の貯留・腫れ、外見上の異常の確認 | 診察料に含まれる |
| 糞便検査 | 寄生虫卵の有無 | 1,500~3,000円 |
| 肛門嚢の内容物検査 | 細菌感染の有無、細胞診 | 2,000~5,000円 |
| 直腸検査 | 直腸内のしこりや異常の触診 | 2,000~4,000円 |
| 超音波検査 | 肛門周囲の腫瘍や膿瘍の評価 | 3,000~7,000円 |
| 病理組織検査 | 腫瘍の良性・悪性の判定 | 8,000~15,000円 |
治療法
肛門嚢の貯留・炎症の場合:
- 肛門嚢の用手的な圧搾排出(肛門腺絞り)
- 抗生物質の投与(感染がある場合)
- 肛門嚢内の洗浄
- 再発を繰り返す場合は肛門嚢の摘出手術を検討
膿瘍・破裂の場合:
- 排膿・洗浄処置
- 抗生物質の全身投与
- 鎮痛薬の投与
- エリザベスカラーの装着
- 治癒後に再発予防として肛門嚢摘出を検討
寄生虫の場合:
- 駆虫薬の投与(寄生虫の種類に応じた薬剤を選択)
- ノミの駆除・予防(条虫の場合)
- 同居動物も同時に駆虫する
予防のポイント
- 定期的な駆虫・ノミ予防を行う
- 適正体重を維持する(肥満は肛門嚢トラブルのリスクを高める)
- 食物繊維が適度に含まれたフードを与える(適度な硬さの便が肛門嚢の自然排出を助ける)
- 肛門周囲の清潔を保つ
- 定期検診で肛門嚢の状態を確認してもらう
よくある質問(FAQ)
Q1. 猫も犬のように定期的に肛門腺絞りが必要ですか?
猫は犬に比べて排便時に肛門嚢の分泌液が自然に排出されやすく、健康な猫であれば定期的な肛門腺絞りは通常不要です。ただし、一度肛門嚢のトラブルを起こした猫、肥満の猫、慢性的に軟便の猫は、獣医師と相談の上で定期的な確認や排出を検討してください。自宅での肛門腺絞りは猫にとって大きなストレスとなるため、動物病院で行ってもらうことをおすすめします。
Q2. 猫のお尻の近くに白い粒が落ちています。寄生虫でしょうか?
白い米粒大の粒がお尻周辺やベッドの上に見られる場合、瓜実条虫の片節(体の一部)である可能性が高いです。新鮮な片節は動いていることもあります。乾燥するとゴマ粒のように見えます。この場合はノミを媒介して感染するため、駆虫薬の投与と同時にノミの駆除・予防が必要です。粒を保存して動物病院に持参すると正確な診断が得られます。
Q3. 肛門嚢が破裂した場合、自宅で応急処置できますか?
肛門嚢が破裂すると、肛門の横の皮膚に穴が開き、膿や血液が出てきます。自宅での応急処置としては、ぬるま湯で湿らせた清潔なガーゼで患部をやさしく拭き取り、猫が患部を舐めないようエリザベスカラーを装着してください。ただし、これは一時的な処置であり、抗生物質による感染制御と患部の洗浄が必要なため、できるだけ早く動物病院を受診してください。
まとめ
猫がお尻を気にする行動やお尻歩き(スクーティング)は、肛門嚢の問題、寄生虫感染、皮膚炎などさまざまな原因で起こります。特に肛門嚢の炎症や膿瘍は放置すると破裂に至ることがあるため、早めの対処が重要です。お尻を気にする行動が続く場合は、肛門周囲の外見や便の状態を確認した上で動物病院を受診してください。寄生虫予防の定期的な駆虫と適正体重の維持が、お尻のトラブルを防ぐ基本となります。
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