犬の痙攣(けいれん)の原因と緊急時の正しい対応【獣医師監修】
この記事のポイント: 犬の痙攣は飼い主がパニックになりがちですが、冷静な対処が犬の命を守ります。発作中にすべきこと・してはいけないこと、原因別の治療法、検査・治療費用の目安まで獣医師監修で解説します。
犬が痙攣を起こす原因は?
犬の痙攣(けいれん)は、脳の神経細胞が異常に興奮し、筋肉が不随意に収縮する現象です。原因はてんかんが最も多く、それ以外に中毒・代謝異常・脳腫瘍などが考えられます。初めての痙攣は必ず獣医師の診察を受けてください。
1. 特発性てんかん
犬の痙攣の中で最も多い原因で、全体の約60〜70%を占めます。明らかな脳の構造的異常がなく、遺伝的な素因が関与していると考えられています。
好発年齢: 1〜5歳の間に初発することが多い
好発犬種:
| 犬種 | 備考 |
|---|---|
| ビーグル | てんかんの遺伝的素因が研究で確認されている |
| ジャーマンシェパード | 大型犬の中で最も多い |
| ゴールデンレトリバー | 家族性の発症パターンが報告されている |
| ラブラドールレトリバー | 同上 |
| ボーダーコリー | 薬剤反応性に注意が必要(MDR1遺伝子) |
| オーストラリアンシェパード | 同上 |
| ダックスフンド | 小型犬の中では比較的多い |
2. 構造的てんかん(症候性てんかん)
脳自体の構造的な問題が原因で痙攣が起こります。
- 脳腫瘍: シニア犬(7歳以上)で初めて痙攣が起こった場合に最も疑うべき原因。ボクサー、ゴールデンレトリバー、フレンチブルドッグに多い
- 脳炎(髄膜脳炎): 免疫介在性(壊死性脳炎等)と感染性がある。パグ脳炎(壊死性髄膜脳炎)はパグに特有
- 水頭症: チワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリアなど小型犬に多い先天性疾患
- 脳血管障害(脳卒中): 高齢犬で突然の発症。甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症に続発することがある
3. 中毒
摂取後数分〜数時間で痙攣が起こります。原因物質を特定できると治療が的確になるため、パッケージや残骸を持参してください。
| 原因物質 | 痙攣発症までの時間 | その他の症状 |
|---|---|---|
| チョコレート(テオブロミン) | 1〜12時間 | 嘔吐、下痢、多尿、心拍数増加 |
| キシリトール | 10〜60分 | 低血糖、嘔吐、ふらつき |
| 殺虫剤(有機リン系) | 数分〜数時間 | 大量のよだれ、縮瞳、筋肉の痙縮 |
| 殺鼠剤(メタアルデヒド) | 1〜3時間 | 過度の興奮、よだれ、高体温 |
| ユリ科の植物 | 数時間〜1日 | 嘔吐、下痢、腎不全 |
| 人間の薬(イブプロフェン等) | 1〜4時間 | 嘔吐、腎障害 |
4. 代謝異常
- 低血糖: 子犬や小型犬に多い。食事間隔が空きすぎると発症。インスリノーマ(膵臓のインスリン産生腫瘍)が原因のこともある
- 低カルシウム血症(子癇): 授乳中の小型犬の母犬に多い。出産後2〜4週間が好発時期
- 肝性脳症: 門脈シャント(先天性の血管異常)や重度の肝不全が原因。若い小型犬に多い
- 腎不全(尿毒症): 進行した腎不全で尿毒素が神経に影響
- 甲状腺機能低下症: まれに痙攣の原因になる。中〜大型犬に多い
5. 感染症
ジステンパーウイルス(ワクチン未接種の犬)、真菌性脳炎(クリプトコッカス等)、トキソプラズマ、ネオスポラなどの感染症が脳に影響して痙攣を引き起こすことがあります。
【独自】痙攣タイプ別の特徴と緊急度判定チャート
pet-dockが獣医師への取材をもとに独自作成した、痙攣の種類ごとの特徴と対応の緊急度をまとめたチャートです。
| 痙攣の種類 | 特徴 | 持続時間 | 緊急度 | 飼い主がすべきこと |
|---|---|---|---|---|
| 全般発作(大発作) | 意識消失、全身硬直→手足のバタバタ(間代性痙攣)、失禁、よだれ | 通常1〜3分 | 高 | 安全確保、時間計測、動画撮影 |
| 部分発作(焦点発作) | 顔面のピクピク、片足だけの痙攣、空を噛む動作(フライバイティング)、一点を凝視 | 数秒〜数分 | 中 | 観察・記録、当日中に受診 |
| 群発発作 | 24時間以内に2回以上の発作 | 各発作は1〜3分 | 超緊急 | すぐに動物病院へ |
| 重積発作 | 5分以上続く発作、または意識が回復しないまま次の発作が始まる | 5分以上 | 命に関わる超緊急 | 一刻も早く動物病院へ |
重要: 重積発作は脳に不可逆的なダメージを与え、体温上昇による多臓器不全を引き起こす可能性があります。5分以上痙攣が続いている場合は、移動中でも構わないのですぐに動物病院に向かってください。
痙攣が起こったときの正しい対処法
【独自】発作前・発作中・発作後の3フェーズ対応マニュアル
pet-dockが獣医師監修で作成した、痙攣発作の各段階で飼い主がとるべき行動をフェーズごとに整理したマニュアルです。
フェーズ1: 前兆期(オーラ)-- 発作の数秒〜数分前
犬が落ち着きなくウロウロする、飼い主のそばに来て離れない、よだれが増える、震えが始まるなどの前兆が見られることがあります。すべての犬に前兆があるわけではありませんが、てんかん持ちの犬では前兆のパターンを覚えておくと早期対応が可能になります。
この段階でできること:
- 犬の周囲の安全を確保(家具を移動、階段やソファから離す)
- スマートフォンを準備(時間計測・動画撮影のため)
- 他のペットや子供を別室に移動させる
フェーズ2: 発作中(痙攣期)
やるべきこと:
- 冷静になる: 飼い主がパニックになると正しい判断ができません
- 安全を確保する: 犬の周囲にある家具や硬い物を移動させ、階段や高所から落ちないようにする。ソファや台の上にいる場合は、クッションや毛布で床に降りたときの衝撃を緩和する
- 時間を計測する: 発作の開始時刻と持続時間をスマートフォンで記録する
- 動画を撮影する: 安全確保ができた後、可能であれば発作の様子を動画で撮影する。獣医師が発作の種類を正確に判断するための最も重要な情報になる
- 静かな環境を保つ: 照明を落とし、テレビやラジオを消す。大きな音や光は発作を長引かせることがある
やってはいけないこと:
- 口に手を入れない: 犬は発作中に舌を噛むことはほとんどありません。口に手を入れると噛まれて大怪我をする危険があります
- 犬を押さえつけない: 痙攣中に体を押さえると骨折や脱臼の原因になります
- 大声で呼びかけない: 刺激が発作を長引かせることがあります
- 水や薬を口に入れない: 誤嚥(ごえん)の危険があります
- 犬を抱き上げて移動しない: 発作中の犬を抱くと飼い主が怪我をするリスクが高い。危険な場所にいる場合は毛布ごとスライドさせて移動
フェーズ3: 発作後期(ポストイクタル期)
発作後は一時的に混乱したり、ふらついたり、視力が一時的に低下したりする「発作後期」が数分〜数時間続くことがあります。
この段階でできること:
- 静かに寄り添い、穏やかに声をかけて回復を待つ
- 水を用意しておく(自分から飲みに来るまで待つ、無理に飲ませない)
- 室温を適切に保つ(発作で体温が上がっている場合がある)
- 発作の記録を整理する(開始時刻、持続時間、発作の様子、回復までの時間)
こんな症状があればすぐ病院へ(緊急サイン)
以下のいずれかに該当する場合は、夜間・休日でも動物病院を受診してください。
- 痙攣が5分以上続いている(重積発作)
- 24時間以内に2回以上の発作(群発発作)
- 初めての痙攣
- 発作後30分以上経っても意識が戻らない、またはふらつきが激しい
- 有毒物質を摂取した可能性がある
- 痙攣後に嘔吐が止まらない
- 呼吸が異常に速い、または呼吸困難
- 体温が40度以上(発作による体温上昇)
- 子犬の痙攣(低血糖や感染症のリスクが高い)
てんかんと診断された場合の治療と管理
抗てんかん薬の種類と特徴
| 薬剤名 | 特徴 | 副作用 | 月額費用の目安(体重10kgの犬) |
|---|---|---|---|
| フェノバルビタール | 最も広く使われる第一選択薬。安価で効果が安定 | 多飲多尿、食欲増進、肝障害(長期使用) | 3,000〜5,000円 |
| 臭化カリウム | フェノバルビタールとの併用が多い。肝臓への負担が少ない | 嘔吐、後肢のふらつき、皮膚炎 | 2,000〜4,000円 |
| レベチラセタム(イーケプラ) | 副作用が少なく安全性が高い。群発発作の緊急投与にも使用 | 鎮静、食欲低下(軽度) | 8,000〜15,000円 |
| ゾニサミド | 日本で開発された薬。単剤使用も可能 | 食欲低下、ふらつき、まれに肝障害 | 5,000〜10,000円 |
| ジアゼパム(坐薬) | 自宅での緊急時用(群発発作の中断) | 鎮静、肝障害(反復使用時) | 頓用(1回500〜1,000円) |
治療の重要なルール
- 薬の自己判断での中止は絶対にNG: 急な中断は「離脱発作」を引き起こし、重積発作のリスクが高まります
- 定期的な血液検査が必要: 薬の血中濃度と肝機能・腎機能をモニタリングします(3〜6ヶ月ごと)
- 発作日記をつける: 発作の日時、持続時間、種類、きっかけ(あれば)を記録。治療効果の判定に不可欠です
自宅での発作管理のコツ
- 発作の前兆パターンを覚えておく
- ジアゼパム坐薬を処方されている場合は、すぐに取り出せる場所に保管する
- 夜間救急対応の動物病院の連絡先と所在地を冷蔵庫などに貼っておく
- 同居のペットがいる場合、発作中の犬を攻撃しないよう分離する
動物病院での検査と費用の目安
一般的な検査内容
| 検査 | 目的 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 身体検査・神経学的検査 | 神経の異常、反射の左右差を確認 | 1,000〜3,000円 |
| 血液検査(CBC・生化学) | 低血糖、肝腎機能、電解質異常を確認 | 5,000〜15,000円 |
| 甲状腺ホルモン検査 | 甲状腺機能低下症の除外 | 5,000〜8,000円 |
| 腹部エコー | 門脈シャント、副腎の異常を確認 | 4,000〜8,000円 |
| 頭部MRI | 脳腫瘍、脳炎、水頭症の評価(全身麻酔下) | 50,000〜150,000円 |
| 脳脊髄液検査 | 脳炎、感染症の確認(MRIと同時に実施) | 15,000〜30,000円 |
| 脳波検査(EEG) | てんかん波の確認(一部の専門施設のみ) | 20,000〜40,000円 |
検査の進め方: 通常、血液検査→画像検査(MRI)→脳脊髄液検査の順に進みます。特発性てんかんの診断は「他の原因をすべて除外した結果」としてなされるため、MRIまで行って「異常なし」であることを確認することが理想的です。ただし費用面の負担も大きいため、年齢や発作の頻度を踏まえて獣医師と相談してください。
年間治療費のモデルケース
体重10kgの犬が特発性てんかんと診断された場合の年間費用のモデルです。
| 項目 | 頻度 | 年間費用の目安 |
|---|---|---|
| 抗てんかん薬(フェノバルビタール) | 毎日2回投与 | 36,000〜60,000円 |
| 定期血液検査(血中濃度+肝機能) | 年3〜4回 | 21,000〜60,000円 |
| 定期診察料 | 年4〜6回 | 4,000〜12,000円 |
| 年間合計(安定期) | 約61,000〜132,000円 |
ペット保険の適用: てんかんの治療は長期にわたるため、ペット保険の加入を検討する価値があります。ただし、てんかんと診断された後の加入では既往症として補償対象外となる保険が多いため、若いうちからの加入が望ましいです。
睡眠中のピクピクと痙攣の見分け方
犬が寝ているときに手足をピクピク動かしたり、小さく鳴いたり、走るように足を動かしたりすることがあります。これは「レム睡眠」中の正常な現象であり、痙攣ではありません。
| 項目 | レム睡眠中の動き | 痙攣 |
|---|---|---|
| 名前を呼ぶと | 目を覚ます | 反応しない |
| 動きの様子 | 軽いピクピク、走るような足の動き | 全身硬直、激しいバタバタ |
| 失禁 | なし | あることが多い |
| 持続時間 | 数秒〜1分程度で自然に止まる | 1〜3分以上続くことが多い |
| 目覚めた後 | すぐに普段通りに戻る | 混乱、ふらつき(発作後期) |
判断に迷う場合: 名前を呼んだり、軽く体に触れたりしてみてください。目を覚まして普通に反応するならレム睡眠です。反応せず体が硬直している場合は痙攣の可能性があるため、触るのをやめて安全を確保し、持続時間を計測してください。
まとめ
- 犬の痙攣の最も多い原因はてんかん(約60〜70%)だが、中毒・代謝異常・脳腫瘍などの可能性もある
- 発作中は犬に触らず、安全確保・時間計測・動画撮影に集中する
- 口に手を入れない、押さえつけないことが鉄則
- 5分以上続く発作(重積発作)、24時間以内に2回以上の発作(群発発作)は命に関わる超緊急
- 初めての痙攣は必ず動物病院を受診し、原因を特定する
- てんかんの治療は長期にわたるが、薬で発作をコントロールできれば通常の生活が可能
- 抗てんかん薬の自己判断での中止は離脱発作を引き起こすため絶対にNG
よくある質問(FAQ)
犬が寝ているときにピクピクするのは痙攣ですか?
睡眠中の手足のピクピク、小さな鳴き声、走るような足の動きは「レム睡眠」中の正常な現象で、痙攣ではありません。名前を呼ぶと目を覚ます場合は心配不要です。ただし、寝ているときに体が硬直し、名前を呼んでも起きない、失禁しているなどの場合は痙攣の可能性があります。
痙攣を予防する方法はありますか?
てんかんの場合は抗てんかん薬の継続投与が最も効果的な予防法です。中毒予防としては、犬に有害な食品(チョコレート、キシリトール、ぶどう等)や薬品を犬の届かない場所に保管してください。定期健診で血糖値や肝腎機能をチェックし、代謝異常を早期に発見することも重要です。また、ストレスや睡眠不足が発作のトリガーになることがあるため、規則正しい生活リズムを保つことも予防に寄与します。
痙攣の動画を撮影すべきですか?
はい、可能であれば発作の様子をスマートフォンで動画撮影することを強くおすすめします。獣医師が発作の種類(全般発作か部分発作か)を正確に判断するために非常に有用な情報となります。ただし、撮影よりも犬の安全確保を優先してください。まず危険な物を犬の周囲から取り除いてから、撮影を開始してください。
てんかんの犬に食事制限はありますか?
特別な食事制限は通常不要ですが、一部の研究ではMCTオイル(中鎖脂肪酸)を含む食事がてんかん発作の頻度を減らす可能性が示されています。市販のてんかん対応療法食も販売されています。フェノバルビタールを服用している犬は食欲が増進して太りやすいため、体重管理に注意してください。具体的な食事内容は担当の獣医師に相談してください。
てんかんの犬は寿命が短くなりますか?
特発性てんかんそのものが直接寿命を縮めるわけではありません。抗てんかん薬で発作が適切にコントロールされていれば、通常の犬とほぼ同等の寿命が期待できます。ただし、群発発作や重積発作が頻繁に起こる場合は脳へのダメージや事故のリスクがあるため、獣医師と密に連携して治療を最適化することが重要です。
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この記事は獣医師の監修のもと作成されています。ただし、個々の症状は犬の状態や体質によって異なります。愛犬の様子が心配な場合は、自己判断せずに動物病院を受診してください。
最終更新: 2026年3月24日